NOVEL

2025.03.28

小島屋短編小説「夢を削る日々」第18話「 新たな技術の習得」

「自分のための椅子を作る。」

そう決意してから、翔太の気持ちは少し軽くなっていた。誰かと競うのではなく、誰かの生活に寄り添うような椅子を作りたい——その思いを胸に、翔太は再びデザインを練り始めた。しかし、新たな挑戦に取り組むにつれ、彼はある問題にぶつかることになる。

「曲線をもっと滑らかにしたいのに、どうしても不自然になる……。」

今回、翔太は背もたれに自然なカーブを持たせたデザインを考えていた。人が体を預けたときに優しく包み込むような形にしたかった。しかし、いざ実際に木材を加工してみると、どうしても直線的でぎこちない仕上がりになってしまう。曲線を作る技術が、明らかに足りていなかった。

そんなとき、村上がふとこんなことを言った。

「お前、そろそろ藤本の工房に行ってみるか?」

「藤本……さん?」

「昔からの知り合いでな。曲線加工が得意な職人だ。ちょっと教えてもらってこい。」

村上が口にした藤本という男は、以前から名前を聞いたことがあった。木の曲線を活かした美しい家具を作る職人で、特に背もたれやアームレストの加工技術には定評があるらしい。翔太はすぐにでも話を聞きたくなり、その週末、村上の紹介状を持って藤本の工房を訪れた。

藤本の工房は、村上の工房とはまた違う雰囲気を持っていた。壁には大小さまざまな曲線を描いた木材が並び、完成した椅子やテーブルが、柔らかで洗練されたフォルムを見せている。その中で、一人の男性が黙々と鉋を動かしていた。

「お前が村上のところの翔太か?」

藤本は、翔太よりも少し上の年齢で、四十代くらいのがっしりとした体格の男だった。彼は木の表面をなでるように見つめながら、鋭い目つきで翔太を見た。

「村上が『曲線の作り方を学ばせろ』って言ってたな。どれ、まずお前が作ったのを見せてみろ。」

翔太は自分が試作した背もたれのパーツを見せた。藤本はそれをじっと見つめ、軽く指で弾いた後、すぐに口を開いた。

「まだまだだな。カーブが不自然だし、木目の流れも考えられていない。」

「木目……ですか?」

「お前、木目を無視して削ってるだろ。曲線を作るときは、木の流れに逆らっちゃダメだ。木はまっすぐに見えても、微妙なねじれがある。それを考えずに削ると、表面が荒れたり、強度が落ちたりする。」

藤本はそう言うと、一枚の木材を手に取り、翔太の目の前で削り始めた。その動きは驚くほど滑らかで、刃が木の繊維を優しくなでるように進んでいく。そして数分後、まるで自然に生まれたような美しいカーブがそこに現れた。

「すげえ……。」

翔太は思わず息をのんだ。今まで自分がやっていた削り方とは、まるで違う。藤本の手の中では、木材が無理なく、あるべき形になっていくように見えた。

「やってみろ。」

藤本に促され、翔太は自分の木材を手に取った。今度は、木目をしっかりと観察し、削る方向を意識しながら刃を入れていく。しかし、思ったようにはいかず、力を入れすぎてしまったり、逆に刃が滑ってしまったりと、失敗ばかりだった。

藤本はそんな翔太をじっと見て、ぽつりと言った。

「力を抜け。お前、木を押さえつけようとしてるだろ。木と喧嘩するんじゃなくて、寄り添うつもりで削れ。」

翔太はその言葉を胸に刻み、何度も何度も削り直した。そして、数時間が経ったころ、ようやく少しだけ、自然なカーブが作れるようになった。

「……なんとなく、わかってきました。」

藤本は少しだけ満足そうに頷いた。

「まあ、すぐにはうまくならないさ。でも、お前にはセンスがある。あとはひたすら削って、体に覚えさせるんだ。」

翔太はその言葉に大きくうなずいた。

村上の工房に戻った翔太は、早速新しい技術を試してみた。今度は木目をしっかりと読んで、力を入れすぎず、木と対話するように削る。そして、何度も試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ理想のカーブに近づけていった。

完成した背もたれを村上に見せると、村上は軽く指でなぞりながら言った。

「ほう、藤本にしごかれてきたな。」

翔太は苦笑しながら、「まあ、かなり鍛えられました」と答えた。

「いい曲線になってるじゃないか。これなら、座る人も安心して体を預けられるだろうな。」

翔太は、その言葉にようやく少しだけ自信を持てた。新たな技術を習得したことで、翔太の椅子はまた一歩、自分の理想に近づいていた。

「よし、次はこの技術を活かして、新しいデザインに挑戦してみよう。」

翔太は新たなスケッチブックを開き、また新しい挑戦へと進み始めた。技術の習得は終わりではなく、さらなる成長への入り口だった。翔太はそれを実感しながら、次の作品に向けて動き出したのだった。


(19話へつづく)
(文・七味)